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―――夏を迎えた辺りからだろうか、自分の命がもう長くないと漠然と感じ始めたのは。
あの人を喪い、弔い、ひと月が過ぎる頃から、徐々に身体が思うように動かなくなって来た。
今では、ベッドから立ち上がることも、一人では辛い。
もうここから生きて出られぬのならば、せめて最期に。
あの人と見た最後の景色を、もう一度。
これを最期に、僕の身体はもう、言うことを聞いてくれなくなるだろう。
父や母に、お医者様に怒られようとも構わない。どうせこれで"最期"なのだから。
これで、最後のわがままだ。
…あぁ、そうだ。
病院に戻ったなら、死ぬ前に誰かに、僕のコアを壊してくれるように頼まないと。
あの子から…現臣から奪ってしまった沢山のものを、返してやらなければ。
跡継ぎ問題も、僕が"始めからいなかった"ことになれば、そのことでゴタゴタする事もないだろう。
大丈夫、あの子ならプレッシャーを跳ね除けて、先に進める、期待に応えられる強さがある。
あの子の強さは、僕がよく知っている。
そういえばそろそろ、彼岸花が鮮やかに花咲く季節だっただろうか。
教会の、重たい扉を開けた。
少し前なら、少し力を込めれば開けられた扉も、今ではずしりと重たい。
すっかり弱ってしまったなと、苦笑する。
微かに火薬の匂いを感じる。あぁ、そういえば昨日、ここで誰かが消えたんだった。
なし崩し的に一緒にいる事になった相手であったが、顔見知りの不幸は、深く、哀しい。
彼にも大切な人がいたと聞いたから、尚更。
歩みを進める。厳かな祭壇に、美しいステンドグラスに向かって。
一歩一歩が、重たい。胸が。息が、苦しい。
途中で膝を付き、長椅子の縁に手をかけ重たい身体を上げる。
あの人の、最期を見届けた場所。
辛い思い出ではあるけれど、最後に、身体が動くうちに、ここに来られて、良かった。
(…春斗さん)
(何故、僕なんかを庇ってしまったのですか)
(守ってもらったところで、僕の命はもう、長くないのに)
(リリアナさん、あなたも、)
(どこで、間違えてしまったの)
(春斗さんはきっと、あなたにも、幸せになってほしかった)
「そこに誰かいるの?」
「貴女は…あの時の」
「…あの人の事、思い出していたの?」
「……そうですね。ちょっぴり、感傷に浸りたい気分だったので」
「心配しないで。私があなたを、もう一度、あの人に会わせてあげる」
「あの人はあなたを待ってる、苦しいなら、私が救ってあげる、あなたも幸せになりたいのね」
「…(首を横に振る)」
「どうして?あの人はもう、いなくなってしまったのよ。寂しいのでしょう?
だから、私が救ってあげる!大丈夫、私が幸せにしてあげられるから!
そうすればもう、寂しくなんてないわ!」
「…貴女は」
「?」
「貴女こそが、幸せになりたいのではないのですか?今の貴女は、なんだか哀しそう」
「…違う!違うわ!私は幸せよ!不幸なんかじゃない…
…だからあなたも、救ってあげる。
神様(私)はあなたを幸せにしてくれるのよ。あなたも、幸せになりたいでしょう?」
(コア投げ)
「…!?」
「どうぞ」
「…本当に消えたいの?本当にそれが幸せなの?」
「僕を消すことで僕を救って、それが貴女の幸せになるならば。
…それに、いいんです、僕はもう…」
「…これを壊したら、あなたを幸せにしてくれるのね」
「…最期に少しだけ、お時間を下さりませんか?少し、お祈りをさせて頂きたいんです」
「…どうして?」
「気分の問題…でしょうか?」
「…分かったわ。それであなたが幸せなら」
「…ありがとうございます。どうか、貴女も、幸せに」
「…」
現臣、ごめんね。でもこれでやっと、お兄ちゃん、あなたから奪ってしまったものを返してあげられる。
幸治さん、あなたには色々と助けて頂きましたね。けれど、せっかく助けて頂いたのに、こんな結末になってしまって、ごめんなさい。
空木さん、どうか自分を責めないで。誰かを好きだって思える事は、とても素敵な事なのですから。
幸人さん、もしあなたが今生きていたら、僕の死体が残らないことも、残念に思って下さったのでしょうか。
マリアくん、僕がいなくなっても、お勉強は続けて下さいね。きっといつか、あなたの役に立つときが来るでしょうから。
…春斗さん…
もしもいけるのなら、
あなたと同じところに…
…いけたら、いいなぁ…
「かわいそうな人」
「…そんな…」
さよならばいばい また いつか
スペシャルサンクス:
都筑琉花さん&ティナさん、リリアナさん、春斗さん
イトマボクトさん&尚織くん
空蝉に関わってくれた全ての人々
素材をお借りしたサイト様その1・その2
ちょっぴり前のお話(※準備中)
少し後のお話(※準備中)
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