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企画展示室
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さよなら企画様公式イベント便乗の小話。
性転換ネタ・NPCでしゃばり注意。
お名前だけイトマボクトさん宅尚織さん、小松旭さん宅空木さん、都筑琉花さん宅春斗さんお借りしています。
本文は追記から。




何事もなくレポートを提出し、弟が待っている校門へと向かう。
すれ違う学生達も先生達も何も驚く所は無く普段どおりであり、「元から女だった」ことになっているのだろうなと言う事を改めて思った。

そういえば今日は尚織さんも空木さんも見かけなかった。
恐らく僕と同様、死神さんの気まぐれで女になっているのだろう。
突然こんな事になったのだから、混乱して学校に来られる状態ではないのかもしれないし、たまたまかもしれない。

「待たせてごめんなさい。用事も終わりましたから、帰りましょうか。」


まだ風は肌寒いが、冬特有の澄んだ晴れ空が心地よい。
体力が許すのならばしばし散歩していたい所だが、こんな季節だ、あまり外に長居しないほうが良いだろう。

「そうだ現臣、ケーキでも奢りましょうか?付き合ってもらったお礼に…」
「うーん…せっかくだけど今日は遠慮する。ほら、今日巌さん来るだろ?」

巌さん?聞き覚えがあるようなないような名前が突然出てきて首を傾げる。

「せっかく許婚が来るってんだから待たせちゃ悪いだろ?まぁ、許婚って言っても父さん達の口約束だけどさ」

許婚だって?そんな話聞いていない。
喉まで出かかった言葉を飲み込む。そんな事を言ったら現臣を混乱させてしまうだろう。
混乱しつつある頭を整理しようと一つ深呼吸し、弟の早く家に帰ろうという提案を承諾する。


「おかえりなさい、空見。巌さん、もう来ていらっしゃいますよ」

母にそう言われ、通された客間にいたのは自分より幾つか年上であろう青年。
そういえばこの顔、見覚えがある。
父と仕事で繋がりのある、二十八グループ会長の一人息子だ。
とはいえ顔と存在を知っているだけで、彼とは元々ロクに面識はなかったのだが。

「こんにちは、空見さん。お邪魔しております」

そう笑顔で挨拶した彼は、感じの良い青年という印象を受けた。
自分も戸惑いつつ、会釈する。

「え…っと…申し訳御座いませんが、今日はどのようなご用件で…?」
「嫌だなぁ、先日連絡させていただいたじゃないですか。今日の午後は空いていますから、一緒にどこかに出かけませんか、って」
「まぁ…本当にごめんなさい」
「いえ、いいんですよ。空見さんも、通院や学業で色々お疲れでしょうし…」

巌さんはそういって私の手を取る。
大きくて骨ばっていて温かい手だと思った。

「…あの、もし体調が優れないようでしたら、この約束はまた後日に回しますが…」
「えっと「まぁ、心配して下さってありがとう御座います。今日は調子が良いみたいですので、せっかくなのでどこかに連れて行ってあげて下さいな」

返事をしようとしたら、お茶を持って来た母に割り込まれる。
まぁ、自分も先ほどレポートを提出しに大学まで行って帰ってきた手前、体調不良を理由に断るのは無理だろうなと思ってはいたが。

「そうですか…良かった。空見さん、一息ついたら出かけましょうか?どこか、行きたい所はありますか?」
「そうですね… …今日は天気がよいので、クガイ公園にでも行きませんか?」
「えっ、そんな所でいいんですか?空見さんがよろしければ構いませんが…」

目の前の青年は知らないが、私は今死神の気まぐれである"ゲーム"に巻き込まれている。
死神さんは言った。ゲーム参加者はこの街からは出られないと。出ようとしても出られないと。
その言葉を思い出し、少々考えて言葉を選んだ。

「…お茶が冷めてしまいましたね。そろそろ、参りましょうか」

―――

「大丈夫ですか?そこ、段差がありますよ」
「そんなに心配して下さらなくても、私は大丈夫ですよ」

巌さんは少々心配しすぎなくらいに私を気遣ってくれている。
嬉しい反面、気を使わせてしまい申し訳ないとも思う。

並木道の木々はすっかり丸裸だ。人もまばらで、どこか寂しげである。
しかしどこか心地よい哀愁を感じるので私は決して嫌いではない。

「僕も枯れ木の味わいは嫌いじゃないんですけれど、やっぱりどこか寂しいですね」
「けれど、その寂しさもまた良いものですよ」

隣に立つ青年はそう言った。案外話は合いそうだ。
あの人とも、こうやって話をすることが出来たら良いのに。ふとそんな事を考えてしまった。

彼に手を引かれ、噴水池のある広場へと歩いていく。
きっと周囲の目にはどこにでもいるカップルとして自分達は映っているだろう。
…そう感じたとき、何か違和感を覚えた。

「噴水の傍はやはり冷えますね…あまり近くには行かないほうが良いかもしれませんよ」

そう言われ、それもそうだなと少し離れたベンチに腰掛ける。
それから暫く他愛も無い話をした。

話をしていて感じたのは、本当に感じの良い青年であるということ。
社交辞令だとか、礼儀だとか、そういう類ではなく、本心から接してくれている感じがした。
二十八グループ会長の一人息子という申し分ない生まれ育ちで、自身もグループ系列の重要な役職に就いているというのに、奢り昂ぶったところも感じさせない。

正直私には勿体無いくらいの男性だ。けれど、突然「許婚」として突きつけられたからか、心がついていかない。
心ここにあらずといった気分だ。

「…空見さん」

そう声をかけられ彼の方を見やると、先ほどまでとは違う真剣な眼差しを私に向けてきた。

「…結婚の件ですが…お返事はいつ頃、頂けますか?」
「えっ…」
「貴女は今までずっと、返事を先延ばしにしてきましたよね。ずっと、迷っていらっしゃるようでした」

そうだろうな。仮に本当に女性として生を受け、今と変わらぬ人生を送っていて求婚されたのならばやはり返事には迷うだろう。
自分は体が弱い。20まで生きられるかも分からないと言われた身だ。成人は出来たがいつどこか遠くへ行ってしまうかも分からない。
相手を置いていってしまう、そんな自分でよいのかと。

「…もし、もし貴女が僕を好いていないのでしたら、その時はハッキリと言ってやって下さい。貴女が嫌だというのを押し通してまで、貴女に結婚を強いる気は僕にはありません」
「…」

そんなことはないと、言いたかった。
身分も地位も申し分ないし、優しく穏やかで、何より私を気遣ってくれている。
そんな彼の事を好いていないなど、どうして言えようか。

けれど。

「…考える時間を…時間を下さい…ごめんなさい…」

あなたの事は嫌いじゃない。素敵な人だ。私にはもったいない。
けれど、何かが引っ掛かる。心に何かがつっかえている。
何故だろう。どうして。あなたではないの。

「…分かりました…どうか、貴女が後悔しないよう…よく考えて下さい」
「…本当に、ごめんなさい」
「いいえ。気にしていませんよ?…そろそろ帰りましょう。じきに陽も暮れます」

―――

巌さんとは家まで送ってもらったのち、玄関先で別れた。
部屋で横になり、この胸のつかえをぼんやりと考えていた。
そういえばあの人は…春斗さんはどうしているだろうか。
今の状況に順応しているのだろうか、それとも戸惑っているのだろうか。

「空見、体調の方はどうだ」
「お父様」

父が障子を開け、声をかけてくる。

「えぇ、外を歩いたので少し疲れましたが、今日は比較的調子がよかったです」
「そうか、しかしあまり無茶をするんじゃないぞ。…ところで、今日は巌君と出かけたそうじゃないか。迷惑をかけたりはしなかったか?」
「…ええと…」

はっきりと、否定できなかった。
うやむやな返事をしたことで、困らせてしまった事だろう。
このもやもやが晴れたら、今日の事を謝りに行こう。
その頃には既にもとの性別に戻っているかもしれないが。

「あまり先方に迷惑をかけるんじゃないぞ。直に結納なのだからな」

「…えっ?」

自分の耳を疑った。



=====
補足:
二十八 巌(にとや いわお)
ゴルーグ♂寄り ゆうかんでうたれづよい
二十八グループ会長一人息子。元々不忍家とは繋がりのある人物ではあった。
家や親のこととか関係なく空見の事が好き。

しかし空見よ、お前の特性はてきおうりょくかと言いたくなる順応力である。笑
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