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企画展示室
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さよなら企画様公式イベント便乗の小話。
性転換ネタ・NPCでしゃばり注意。
本文は追記から。




奇妙な夢から覚め、部屋を見回す。
特に変わったところもない、見慣れた自分の部屋だ。
しいて言うならば、少々頭が重い。いつもの体調不良だろうか。
そう思いつつ首を動かすと何か違和感を感じる。
見てみると、肩上までしかなかったはずの自分の髪が腰まであろうかという長さになっていた。
今まで無かったはずの鏡台の存在に気付き、鏡を開く。
そこにいたのは青白い肌と長い髪を持った、紛れも無い「女」であった。
戸惑いつつも自分の身体に触れ、微かではあるが胸部に柔らかみを感じ、心なしか骨格が丸みを帯びていることも確認し、ようやく先ほどの夢がただの夢でなかった事を確信する。

―今から10日間ほど、君達の性別を反転させてもらうよ―

「本当に、変わった事をなさるお方ですね…」

"死神"とやらの気まぐれに思わず溜め息をつき、声色があまり変わっていなかった事に少々落胆する。自分はそこまで男らしさにかけていたのかと。

死神曰く、誰かを消せばすぐにもとの性別に戻れるらしいのだが、自然に戻るのであればそんなことをする必要も無いだろう。
とりあえず10日間ほど、乗り切ればいいだけの話だ。そう、ほんの10日間ほど。
いつもどおり過ごせばいいだけ。何事もなく。
そうしていつもどおり、障子を開き外の空気を取り入れる。

「あ おはよう姉ちゃん。なんだ、起きてたんだ」
「現臣…」

自分の双子の弟、現臣。
ここ十数年、まともに会話することも無くなった、大切な兄弟。
そんな彼に向こうから声をかけられ、思わず息を詰まらせる。

「?どうしたんだよ姉ちゃん、そんな顔して。朝飯、出来てるってさ。大丈夫そうだったら早く食べにきなよ」
「え あ う、うん。」

そう言って現臣は居間に続く廊下を歩いていく。
どういう風の吹き回しだろう、そう思ったがふと今朝の夢の死神の言葉を思い出す。

―周囲から見れば、君達は生まれ落ちたその日から「逆の」性別だったという事になる訳だよ。―

…つまり、自分はこの不忍の家に生まれたその日から女性であったということになっているのだ。
そして現臣は男のまま、変わっていない。元々長男であった自分が女になったのだから、今は彼が長男と言うわけか。

「…という事は、今は現臣が不忍家の跡継ぎ…」

なるほど。自分達兄弟の不仲は跡継ぎの座に関するゴタゴタだ。
それが無くなったのだから現臣は自分に普通に接してくれているのだろう。
…男だった頃も、小さい頃はこうやって兄弟仲良く過ごせていたのになぁ。

「姉ちゃん、大丈夫?」

なかなか食卓に来ない自分を心配してくれたのか、現臣が再び部屋にやってくる。

「辛そうだったら部屋に持ってくるよ?」
「ううん、大丈夫。今行きますから」

そう弟に告げ、軽く髪を梳かし身支度を整える。
腰まである長い髪は、ちょっと梳くだけでも一苦労だ。


食卓には弟と母、そして家政婦さん。
父はいつも通り、既に仕事に出ているのだろう。

「空見さん。今日は顔色がよろしいようですね」

母が微笑んで言う。空見。それが「女」として生を受けた自分の名か。
確かに死神の言うとおり生まれた時から性別が逆なのならば、名が違っていても頷ける。

「えぇ。今日は天気も良いですし…体調も良いので、そうだ大学にレポートを提出しに行かないと」
「それだったら、俺も付いてくよ」

現臣が言う。自分ひとりでも大丈夫なのに、と言いかけた時、彼は続けた。

「ちょうど今日は授業が休講だし、それに一人じゃ何かあったとき困るだろ?」
「でも…」
「いいって姉ちゃん!俺の事を気遣ってくれるのも嬉しいけど、もう20なんだぜ?少しは頼ってくれよ。姉ちゃん、体が丈夫じゃないんだし…」

心から自分を案じてくれているのが表情から伺いしれる。
その心遣いを無下にしたくは無いし、正直嬉しい。

「それじゃあ…お願いしましょうか」

現臣はへへっと屈託の無い笑顔を見せてみせる。

自分が女になったからとはいえ、こうして兄弟…姉弟で仲良く話していると、在りし日に戻れたように思えてくる。
今の現臣は両親から跡継ぎとして期待され、本人もその期待に応えるべく日々精進しているのだろう。本当に活き活きとしている。

―これだ。自分が望んでいたのは。
 家族が仲良く、明るく過ごせるこの環境。

(こうやって…兄弟、家族で仲良く過ごせるのならば…)

自分はこのまま元に戻らなくてもいいかもしれない。
空蝉…空見はそう思い始めていた。



=====
補足:
不忍現臣(しのばずあらおみ)
テッカニン♂ せっかちでまけんきがつよい
設定にある空蝉の双子の弟。次男であるがために跡継ぎになれず何をしても期待されないため鬱屈していた。
二卵性双生児なので兄とは全く似ていない。

空蝉の部屋はでかい障子一枚で庭を望める廊下と隔てられてるイメージ。


祖父母は姉弟たちより先に朝ごはん済ませてたんじゃないかな、ご老人の朝は早いし←
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