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企画展示室
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「はぁ…困りましたね…」

『非常勤は1年まで、超えれば解雇』―――
念願の自衛軍に入隊できたと思った矢先に、予算不足により導入された方針。
パートナーのアテもなく入隊した自分は当然、現在は非常勤だ。
このままパートナーが見つからなければ、折角入隊した軍を離れなければいけなくなる。
かといって自分にはパートナーになってくれそうな見知った異界人などいない(入隊後に探すつもりでロートの扉を叩いたのである)。
どうしたものかと華奢な青年―ネージュ―はため息を吐く。

そんな思索に耽っていたそのとき、ドアを叩く音が聞こえた。







「こんにちはー!お届け物だよー!!」

「いらっしゃい、いつもありがとうございます」

家業…機織のための資材を配達しにきたこの異界人の少年は名をドットといい、ウラガワの世界からこちらに突然迷い込んでしまったのだが、なんとかその日暮らしができているようで、現在は配達員の手伝いをしているのだとか。
たびたび配達に来てくれることで顔を合わせる事も多かったため、次第に世間話をする程度にはネージュはこの少年と仲良くなっていったのだ。

「今日はこの後もお仕事ですか?」

「うん!あと四件配達するんだ!」

「そうですか、この後もがんばって下さいね」

「ありがとー!俺がんばるよ!じゃあね!!」

一言二言、言葉を交わしてその場を走り去るドットをネージュは手を振りながら見送った。

(…いや、彼は忙しいのだ。声をかけるわけにはいかないでしょう)

もしも彼がパートナーになってくれたなら…そんな考えが浮かぶが、すぐに振り払う。
彼は配達員として働いていて忙しい、それに何より…声をかける勇気が無いのだ。
ネージュは再びため息を吐き、機織の仕事に戻った。




「助けてー!!!」

ある日、仕事道具の整理をしていたら助けを呼ぶ声と共にドアが勢いよく開かれた。
そこにいたのはドットであった。

「ど、どうかしたのですか、ドットくん?」

「今ちょっと追っかけられてるんだ!説明は追々するからとりあえず匿って!!」

「え、えぇ、構いませんが…」

扉を閉めて程なくして、外から聞こえる怒声とざわめき。
恐る恐る窓から外を見てみると、そこには苛立った様子の異界人の男性がいた。
その様子に、周囲の先住民達は怯えているようだった。

「見ただろ?あいつ、あいつに追われてるんだ!」

「で、でもどうして…?」

「知らない!なんかいきなり因縁付けられて!それで襲われそうになったから逃げてきたんだ!」

先住民達に力を振るう野良異界人だろうか?なんにせよ、異界人が暴れている以上、自衛軍に連絡しなければ。

「安心して。少し待っていて下さい、今自衛軍に応援を頼みますから、彼らに任せましょう」

「でも俺、配達の途中だったから早く荷物を回収しないと…そうだ!」

何かを思いついたのか、ドットは手を打った。

「ねぇネージュ、この際充電池でもいいから何か電気入ってるもの持ってない?電気を貰えればあいつくらい追い払えると思うから!」

「えっ!?あなた一人で彼を鎮圧するつもりですか…!?」

とんでもない事を言い出すものだ。いくら異界人といえど、子供を危険に晒す事はできない。
仮に自分が協力するとしても、パートナーのいない非常勤は異界人との交戦を禁じられている。
それにこれではまるで、異界人同士の諍いに自分が手を貸すようなものだ。本部からのお叱りは避けられないだろう。

「大丈夫!俺に任せて!!」

しかし、目の前で困っている少年を放っておけないのも事実。

「…わかりました。ただし、自衛軍の方が来たら、彼らに任せるように」

「うん!わかった!!」

後日自分を待っているであろう始末書の事を考えながら、ネージュは充電池のありかを必死に思い出すのであった。




「やいやい!さっきはよくも仕事の邪魔したなー!」

「あっ!てめぇ、さっきのガキ!!」

顔をしかめながら電池を吸って出て行ったドットを、ネージュはハラハラしながら見守る。
いくら電気を補充したとはいえ、体格の差がありすぎる。本当に大丈夫だろうか?

「街の人たちに迷惑かけるのはやめろよー!じゃないとビリビリするぞ!」

「へっ、お前のようなチビに何ができるってんだぁ?」

「大人しくしないと、こうだぞー!!」

瞬間。空気がピリっとした。
窓の外の様子を見ると、ドットが男に向かって電撃を飛ばしていたのだ。
男は水タイプらしく、たまったもんじゃないと言った表情でドットを見ている。

「なっ…お前、そんな力があったのかよ!…しょうがねぇ、今日のところは勘弁しといてやるぜ、ありがたく思えよ!」

そんな捨て台詞を吐いて去っていく男は、立派な体躯に反してどこか情けなく見えた。




自衛軍がやってきて事の後始末に当るより先に、ドットは再びネージュの家の中へと入ってきた。

「やった、やった!ネージュのおかげだよ、ありがと!!あ、これはお礼のきのみ!!」

「どういたしまして、でもあなたも異界人ならば魔力を持っているのでは…?」

「あぁそれね、雇われ先だとろくに電気がもらえなくて…おかげでああいう相手に何もできないしお腹は空くし、困ってたんだよー」

なんということだろうか、この少年は雇われ先でろくな扱いを受けていなかったというのだ。
彼の境遇をネージュは気の毒に思い、気がつけば口を開いていた。

「…あの、私、実は自衛軍に所属しているんです。今はパートナーがいなくて探しているのですが、よろしければ私のパートナーになって頂けませんか?私にできる事ならできるだけ手厚く扱わせて頂きますので…」

「!!」

「もちろん、配達員のお仕事を優先して頂いても構わないのですg…」

「なる!なるなる!!配達員辞めてくる!!」

「え…えぇっ!?」

「ネージュ優しいし、一緒にいるの全然いいよ!!それじゃ、仕事先に辞めるって言ってくるね!!」

ちょっと待って、という間もなくドットは駆け抜けていった。
やれやれ、と思うと同時にこれから賑やかになりそうだと思うと、ネージュの口元には自然に笑みがこぼれていた。

後日、ドットとのなれそめについてヴルカーンから聞かれ、お叱りを受けたのはまた別の話。

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お借りしました:
ドットくん(@りゅーさん)
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